だが、堅調な企業業績とは裏腹に、個人消費は伸び悩みが続く。大手企業では徐々に賃金が上がっているものの、全企業の9割を占める中小企業や働く人の4割を占める非正規雇用への波及が鈍いためだ。10月の実質賃金は前年同月比0.1%減と5カ月連続でマイナスとなっており、「企業業績の回復による雇用・所得の改善が個人消費を押し上げるという首相の描いたシナリオ通りに進んでいない」(小林俊介・大和総研エコノミスト)のが実情だ。
また、目指すデフレ脱却は進んでいない。2013年3月に就任した黒田東彦総裁の下で、日銀は市場から国債を買い取って世の中に大量のお金を流し込む「異次元緩和」を実施。16年2月にはマイナス金利、同年9月には長期金利を0%に誘導する長短金利操作も導入し、超低金利で景気を下支えしている。
しかし、政府・日銀が目指す2%の物価上昇目標はいまだに実現しておらず、日銀は当初「2年程度で実現する」とした目標達成時期を6回も延期。超低金利で金融機関は運用難に苦しむほか、日銀が国債発行残高の約4割を買い占めたことによる財政規律の緩みなど、副作用への懸念が強まっている。欧米の中央銀行が超低金利政策の出口戦略を進めるなか、今後、早期にデフレ脱却を果たせるかが問われそうだ。【大久保渉、松本尚也】